保護者と毎日顔を合わせるのが、少し憂鬱でした。
肢体不自由の特別支援学校では、医療的ケアが必要な子どもの保護者が毎日送迎に来ることも珍しくありません。つまり、毎日必ず対面で話す場面があるのです。
でも1年目の私には、何を話していいか分からなかった。
子どもの実態把握も十分にできていない。雑談は元々苦手。
しかも担当する児童の保護者は、前年度に別の教員との間でトラブルがあったと聞いていました。

送迎の時間が近づくたびに、胃がきゅっと縮む。そんな毎日でした。
もしあなたが今、同じような気持ちを抱えているなら。この記事を読んでみてください。
雑談が苦手でも、保護者との信頼関係は築けます。
毎日の送迎が憂鬱だった1年目

重度重複学級に配属されて、最初にぶつかった壁は授業のことでも身体アプローチのことでもなく、保護者対応でした。
一般の学校であれば、保護者と顔を合わせるのは参観日や面談の時くらいかもしれません。
でも肢体不自由校、特に医療的ケアの必要な子どもの場合、保護者が毎日学校まで送り迎えをするケースも多いです。
- 登校時にお子さんを引き受けるとき。
- 下校時にお返しするとき。
そのたびに、何か話さなければいけない。
当時の私は「世間話ができる先生」に憧れていました。天気の話、ニュースの話、趣味の話……。でも、そもそも雑談が苦手な自分にはハードルが高すぎました。
さらに難しかったのが、担当の児童の保護者との距離感です。
前年度にトラブルがあったと引き継ぎで聞いていたため、「何を言っても裏目に出るのでは」というプレッシャーが常にありました。
初めての面談で、不信感を与えてしまった

4月の個人面談。教員として初めての保護者面談でした。
子どもの様子やこれからの指導方針を伝えなければいけない。でも、赴任してまだ数週間。
子どものことを十分に理解できていない自分には、自信を持って話すことができませんでした。
その自信のなさは、きっと言葉の端々に出ていたのだと思います。
自信の無い曖昧な表現が続く私の話を聞きながら、保護者の表情がだんだん硬くなっていくのがわかりました。
面談が終わった次ぐ日、対面では言われませんでしたが連絡帳にはこう書かれていました。
これから、1年間が不安です。
それは、不信感のスタートでした。
「この先生に任せて大丈夫だろうか」
——保護者にそう思わせてしまった。
1年目の私にとって、これは相当こたえる出来事でした。
「無理に雑談しなくていい」——ベテラン教員の一言
落ち込んでいた私に、転機をくれたのは同じクラスのベテランの先生でした。
その先生は、自分でも「口下手だ」と言っていた方です。
保護者とペラペラ世間話をするタイプではありません。
でも、保護者からの信頼はとても厚い先生でした。
ある日、思い切って相談しました。

保護者と何を話していいかわからないんです…。
返ってきた言葉はシンプルでした。

無理に雑談しなくていいんだよ。
保護者が一番喜ぶのは、我が子の成長や楽しい様子を聞けること。
それだけ伝えればいい。
この一言で、私の中にあった
「流行りの話題を振らなきゃ」
「面白いことを言わなきゃ」
という思い込みが、すっと外れました。
保護者が知りたいのは、学校での我が子の姿だったのです。
子どもの姿を「伝える」ために私がやったこと

方針が決まってからは、やることがシンプルになりました。
- 登校時は、家での様子を聞く。
- 下校時は、その日のポジティブな出来事を伝える。
最初はそれだけです。
伝えることを「子どもの姿」に絞ると、雑談が苦手でも話せることは意外とあります。
ただ、ここで一つ壁がありました。赴任したばかりの私には、「子どもの姿」を語れるほど目が育っていなかったのです。
そこで私がやったのは、同じクラスの先生に素直に聞くことでした。

今日の○○ちゃん、
朝からちょっと表情が違った気がするんですが、
先生はどう思いますか?
ベテランの先生たちは、私が気づかない変化をたくさん見ています。
その視点を借りることで、自分一人では気づけなかった子どもの姿を保護者に届けることができました。
そしてもう一つ、大切にしたことがあります。
それは、子どもと仲良くなることを最優先にしたということです。
保護者と仲良くなろう、ではなく、まず目の前の子どもを深く知ろう。
子どもとの関係を築こう。
その姿勢で関わり続けた結果、伝えられることが自然と増えていきました。

今日、私が歌を歌ったら、○○ちゃんがじーっとこっちを見て、
少し口角が上がったんです!
子どもの小さな変化を、嬉しそうに伝える。
それを繰り返すうちに、保護者の表情が少しずつ変わっていったのを覚えています。
まとめ——保護者と「仲良くなろう」としなくていい
あの年の年度末、保護者からこう言っていただきました。

来年も先生に担任してほしいです。
不信感から始まった関係が、1年かけて信頼に変わった。
振り返って思うのは、保護者と「仲良くなろう」と頑張る必要はなかったということです。
大切だったのは、子どもを深く知ろうとする姿勢。
そして、その過程で見つけた子どもの姿を、保護者に届けること。
雑談が上手でなくても、流行りの話題を知らなくても。
子どもの姿を軸に話すだけで、保護者との信頼関係は後からついてきます。
もし今、保護者対応に悩んでいるなら。
まずは明日の下校時に、その日見つけた「ちょっといい場面」を一つだけ伝えてみてください。
それが、信頼への第一歩になるはずです。


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