肢体不自由校に赴任して、最初に戸惑ったのが「自立活動」の時間でした。
ベテランの先生が子どもの体に触れて、筋肉の緊張をほぐしている。
自分も見よう見まねでやってみるけれど、心の中は「?」だらけ。

これ、何の時間なんだろう。
新任教員として赴任して感じたこの感覚…。
あれから15年。今なら「あの時間」の意味がわかります。
そして、当時の自分に伝えたいことが3つあります。
どれも特別な話ではなく、現場で気づいたシンプルなことです。

「何をしているかわからない」のは当然。目的の”つながり”を知ればいい
正直に言うと、1年目の私が一番しんどかったのは「自分が何をしているかわからない」ことでした。
子どもの筋緊張をゆるめる。それ自体はわかる。
でも、「ゆるめて、それで?」という疑問がずっと消えませんでした。
今ならこう説明できます。

- 筋緊張がゆるむ
- 姿勢が取りやすくなる
- 活動に向かえる体勢が作れる
- 学びの土台ができる
一つひとつの行為は地味です。でも、それが次の段階につながっている。
「からだのゆるめ」は、ゴールではなくスタートラインということだったんです。
1年目の自分に足りなかったのは、この「つながり」の全体像でした。
目の前の行為だけを見ていたから、意味が見えなかった。
逆に言えば、このつながりを知るだけで「何をしているかわからない」はかなり減ります。
今やっていることが、この子の何に向かっているのか。
その一本の線が見えると、日々の自立活動の景色がだいぶ変わるはずです。
支援者が変わると子どもが変わる——「体の動き」を知るということ
もう一つ、1年目で強烈に覚えているエピソードがあります。
ある子は自力で歩くことは難しいけれど、大人が支えれば足を左右に踏み出して歩ける、という実態でした。
ベテランの先生が支援すると、その子はテンポよく足を踏み出して歩いていました。
ところが、私に交代した途端、一歩も出ない。
原因はその子ではなく、私の支援の方にありました。
ベテランの先生は「歩く」という動作の中で起きている重心移動を理解していたんです。
どのタイミングでどちらに重心を移せば次の一歩が出るか。
それを知った上で支えていたから、子どもが自然に足を出せた。私はただ「支えていた」だけでした。
この経験で思い知ったのは、身体アプローチには知識と技術が要るということです。
一番手軽な学び方:自分の体で試してみる
とはいえ、いきなり専門書を読み込むのはハードルが高いと思います。
まずおすすめしたいのは、自分の体で日常の動作を意識的にやってみることです。
| 椅子から立ち上がるとき | お尻にあった重心が足の裏に移動して、さらにつま先の方に移ることで立ち上がれる。 |
| 歩くとき | 左足に重心を傾けると右足が持ち上がる。 |
普段は無意識にやっている動作を、「今、重心がどこにあるか」と意識してやってみてください。これだけで、子どもの体を支えるときの視点がかなり変わります。
もう少し深く学びたくなったら
以下の2冊が参考になります。
まず取りかかりやすいのはこちら:
- 発達が気になる子へのスモールステップではじめる生活動作の教え方|鴨下 賢一
日常生活動作を身につけるための初期段階の取り組みが幅広く載っています。重心移動の細かい話まではありませんが、「この子にどんな支援をすればいいか」の引き出しが増える一冊です。読みやすいので、最初の一冊におすすめ。
さらに動作の仕組みを深く知りたい方に:
- 運動からだ図解 リハビリで役立つ 動作分析の基本 新版|石井 慎一郎
立ち上がり・歩行などの動作時の重心移動やバランスが図解で説明されています。もともと理学療法士向けの書籍なので内容は専門的ですが、図が多いぶん教員にも理解しやすい部類だと思います。すぐに全部を理解する必要はなく、「今担当している子の動作」に関係するページだけ読む、という使い方でも十分役立ちます。
私はたまたま1年目に、経験豊富で専門知識のあるベテランの先生に教わることができました。
でも、そういう環境に恵まれる人ばかりではないと思います。
だからこそ、自分で知識を取りにいく姿勢が大切です。
本を1冊読む、自分の体で試してみる。小さなことで構いません。
「訓練」で終わっていないか?——子どもの”やりたい”を引き出す活動設定
15年間、いろいろな先生の自立活動を見てきて、一つ気になることがあります。
立位、歩行、姿勢変換、座位の保持……。
これらの動作をただ繰り返しているだけ、という活動を時々見かけました。
もちろん、歩き始めたばかりの子やハイハイを覚えたての子なら、動くこと自体が楽しくてしょうがない時期もあります。
でも、そうでない場合は要注意です。
大人だって、目的のないスクワットを延々やらされたらつらいですよね。
大切なのは、その動作の先に子どもにとっての「いいこと」があるかどうかです。

身体の動きそのものを目的にするのではなく、「この動きをすると楽しいことが起きる」という設定を作る。
そうすると子どもの意欲が変わりますし、意欲が出ると自然と身体を使う力が育まれていきます。
これは以前の記事でお話しした、スイッチ教材の「因果関係に気づく」ステップとも根っこは同じです。
自分の動きが世界を変える、という実感が子どもを動かす。
身体アプローチもコミュニケーション指導も、「子どもの意欲を引き出す」という点でつながっています。
特に重度重複の学級では、この「意欲を引き出す活動設定」が見落とされがちな場面をよく見かけます。
身体へのアプローチに意識が向くあまり、子どもの「やりたい」を置き去りにしてしまう。
この両方を忘れずにいたいなと思っています。
まとめ
自立活動の身体アプローチに悩んでいた1年目の自分に伝えたかったのは、この3つです。
- 目的のつながりを知る——目の前の行為は、その子の未来につながっている
- 体の動きを学ぶ——まずは自分の体で試してみるところから
- 子どもの意欲を忘れない——「訓練」ではなく「やりたい」を引き出す活動に
この記事で「これは何の時間なんだろう」と書いた、あの問いへの答え。
15年かけてたどり着いたのは、すごく当たり前のことでした。
目の前のことに意味を見出せなくても、疑問を持ち続けていれば少しずつ見えてくる。
焦らなくて大丈夫です。


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