最初に用意したのは、押しボタン式のスイッチでした。

手のひらや指先で押す、スイッチ教材の中でも一番スタンダードなタイプです。
「まずはこれだ」と思って学級に持ち込んだのですが、すぐに壁にぶつかりました。

押せない子が多い…。
重度重複学級の子どもたちの中には、手や指に力を込める「押す」という動作そのものが難しい子が少なくありませんでした。
押しボタンスイッチは、見た目よりもずっとハードルが高かったのです。
そこから私は「どんなスイッチなら押せるのか」を真剣に考え始めました。
書籍や資料を読みあさる中で出会ったのが、棒スイッチでした。

棒を握って倒すだけで反応するスイッチです。これを試してみようと、書籍の作り方を参考に自作しました。
その際に参考にした書籍も皆さんに共有したいと思います。
そして、ある子どもに使ってみた日のことは、とても印象に残っています。
その子は手足をよく動かす子でした。
でも一見すると、理由のないバタバタとした動きに見えます。
ところがよく観察すると、一つだけ明らかに違う動きがありました。
自分の首にかけたよだれかけを、口元にゆっくり持っていく動きです。
バタバタとした手の動きとはまったく違う、目的を持った、意図のある動きでした。

この動きができるなら、棒を握って動かすことも、きっとできるはず!
そう仮説を立て、棒スイッチを用意しました。
先につないだのは、音が鳴って動く小さなサボテンのおもちゃを改造したものです。

授業が始まって少し経ったころ、その子の手がバタバタする拍子に、棒スイッチに触れました。
- サボテンが音を鳴らして動き始める。
- また触れると止まる、
- また触れると鳴る——。
その繰り返しの中で、それまでのバタバタとは違う、棒をはっきりと「握る」動きが出てきたのです。
試しにスイッチの位置をそっとずらしてみました。
すると、その子の手がスイッチを探るように動いたのです。
タオル以外のものに、自分から関わろうとした瞬間でした。
それが、この子とスイッチ教材の出会いでした。
スイッチは、子どもの「今できる動き」に合わせて選ぶ。
それだけで、こんな場面が生まれることがあります。
今回は、重度重複学級でよく使われる4種類のスイッチの特徴と選び方を解説します。
スイッチ選びの「大原則」——子どもに合わせる、スイッチに合わせない
スイッチ選びで一番大切なのは、「子どもに新しい動きを習得させようとしない」こと。
今できる動きにスイッチを合わせるのが大切です。
「この動きがあるから、このスイッチ」という発想で選ぶことが、スタートラインです。
重度重複学級でよく使われる4種類のスイッチ
①押しボタン式スイッチ

最もスタンダードで入手しやすいスイッチです。手や腕でしっかり押して使います。
| こんな子どもに | 手・腕・頭などある程度の力で押せる子。スイッチ教材の導入期に |
| メリット | 様々なサイズがあり、大きいほど押しやすい。操作音・クリック感があり因果関係を理解しやすい |
| 注意点 | 体の緊張が強い子や不随意運動がある子は誤操作が起きやすい |
すぐに使えておすすめなのが、録音機能付きクイックボタンです。
録音機能があるため音声や音楽をそのまま録音して使用できます。
赤・オレンジ・ピンク・青の4色展開のため、
- 赤は「はい」
- 青は「いいえ」
複数のボタンを使い分けてやりとりをする際などに色で識別できるのが良い点です。
②棒スイッチ(ジョイスティック型)

棒を前後左右に倒すとスイッチがONになるタイプです。「握る力はあるが押す動作が難しい子」に適しています。この記事の冒頭でご紹介したエピソードも、この棒スイッチを使ったものです。
| こんな子どもに | 棒を握れるが「押す」動作が難しい子。首・頭を使って操作したい子 |
| メリット | 自作できるため低コスト(材料費1,000〜2,000円程度)。カスタマイズしやすい |
| 注意点 | 市販品は少なく、自作が前提になることが多い |
冒頭でも取り上げましたが当時この書籍を参考に棒スイッチを自作しました。
他にも様々なスイッチ教材の作り方が掲載されていますが、特にこの「棒スイッチ」は材料さえ揃えられれば比較的簡単に作成することができました。
③ピエゾスイッチ

指先のわずかな圧力だけで反応する超高感度スイッチです。1〜2g程度の力で動作するため、ほとんど力が出せない子にも対応できます。
| こんな子どもに | 指先しか動かせない子、体の緊張が強く大きな力が出せない子 |
| メリット | 薄くて貼り付けられるタイプもある。体のさまざまな部位(指先・こめかみ等)に装着できる |
| 注意点 | 感度が高いため不随意運動でも反応することがある。感度調整が重要 |
PPSスイッチ2025 (ピエゾニューマティックセンサスイッチ/2025年モデル) |圧電素子式入力装置 空気圧式入力装置
価格は2026年4月時点で46,970円(税込)
値段が張りますが、デモ機の貸し出しも行っているようです。
まずは貸し出しで試してみて、活用できそうと思ったら在籍校のICT担当(情報)の先生に猛アピールしてみるのも手かもしれません(笑)
私は当時、同メーカーの旧タイプの物を使ったことがあります。
その際は、すでに学校で備品購入されたものを使用していました。
④視線入力

カメラで目の動きを追跡し、視線だけで操作できるシステムです。Tobii Eye Trackerなどが代表的な機器で、体をまったく動かさなくても使えます。
| こんな子どもに | 体をほとんど動かせない子。他のスイッチでは操作が困難な子 |
| メリット | 身体接触が不要。PCやタブレットと連携して多様な操作が可能 |
| 注意点 | 機器が高価。 |
当時、私が使った視線入力機器はこちらのメイカーの旧タイプでした。
これは、PCに接続して視線を使った入力するマウスという表現が近いかと思います。
この機器を用いたアプリ「重度障害児支援システム EyeMoT」というものもあります。
子どもに合ったスイッチを見つける「実態把握」の3ステップ
スイッチの種類がわかっても、「この子には何が合うのか?」は実際に試してみないとわかりません。
冒頭のエピソードでいえば、「よだれかけを口に持っていく動き」という日常のさりげないひとコマが、スイッチ選びの鍵になりました。
子どもの「今の姿」をよく見ることが、出発点です。
① 動く部位を探す
意図的に、あるいは反射的でも「動かせる身体の部位」を探します。指先・手・腕・頭・足、どこでも構いません。日常の何気ない動きの中に、ヒントが隠れていることがあります。
② 刺激の好みを把握する
前回の記事で紹介した「実態把握」と連動して、振動・光・音のどれに反応するかを確認しておくと、スイッチを押した後の教材選びにも役立ちます。
③ スイッチを一種類ずつ試す
一度に複数のスイッチを試すのではなく、1種類を数日〜1週間単位で試します。反応の変化を記録しておくと後のアセスメントに活用できます。
「このスイッチが絶対正解」はありません。
同じ子でも体調や緊張状態によって反応が変わることがあります。
固定せず、定期的に見直す姿勢が大切です。
まとめ:スイッチ選びに「正解」はない。今の子どもの姿から始めよう
スイッチ選びに「正解」はありません。
大切なのは、今の子どもの姿をよく見て、「この動きなら使えるかも」という仮説を立てて試すこと。
スイッチはあくまで道具です。
その道具を通じて、子どもが「自分が世界を動かした」と感じる瞬間を一緒に作っていきましょう!


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